『礼儀正しい国』:キノの旅ファン小説

 

礼儀正しい国

ーOur rule is our commonsence.ー

 

草原は春の陽光を浴びて、色とりどりの花で埋め尽くされていました。細く澄んだ川に沿った道を、一台のモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)が走っていました。運転手は十代中ごろの若い人間でした。黒い髪の上に鍔と耳を覆うたれのついた帽子をかぶり、ところどころが禿げた銀色フレームのゴーグルを着けていました。
「もうすぐだね」
「次に行くのはどんな国なの?」
「とても美しい国だと聞いた。この時期はサクラという花が満開で、その花びらが吹雪のように舞っているんだって。それにー」
「それに?」
「ご飯がとても美味しい。」
「そればっかり」

 

地平線の向こうに白い城壁が見えました。太陽の光を反射して、城壁と瓦がきらきらと輝いていました。
「キノ、ここかな?」
「ああ、本当に美しい...」
堀に渡された橋をゆるゆると渡り、城門へと入っていきました。
「ようこそ我が国へ!旅人さんですね?」
「はい、三日間滞在する予定です」
「武器はお持ちですか?」
「ナイフとパースエイダーがあります」
「国内では周囲を威圧しないよう、隠していただければ持ち込んでいただいても結構です。我が国の治安はとても良いので、使う機会はありませんが。どうぞ、手続きが済みましたので、ご入国ください」
「「ようこそ我が国へ!」」
事務所にいた全員が全く同じ角度で深々とお辞儀したので、キノは少し驚きました。

 

街は大変静かでした。キノを見かけた人々はみな、静かにお辞儀しました。
「ここではお辞儀が挨拶なんだね」
モトラドもお辞儀出来たらなあ」
「通りも静かで綺麗だ」
「ま、酔っぱらいにべたべた触られるのはもう勘弁だね」


物価はあまり安くないので、キノはレストランではなく居酒屋で夕食を取る事にしました。店に入るなり上着を脱ぐよう促され、「上着は食事の間にクリーニングし、モトラドもピカピカに洗車する」と説明されました。

「入れたり作れりだね、キノ」
「・・・至れり尽くせり?」
「そうそれ」

旅人のニュースは国中に知れ渡っていたので、キノもスーツ姿で飲み会をしているグループにお呼ばれしました。
「やあ旅人さん!この国はどうです?」
「とても美しくて、静かな国ですね。それに食事も・・・この生の魚もとても美味しいです。素材が良いんですね」
「治安も良いし、望むならいくらでも滞在していってよ!」
「よっ、俺も混ぜてくれよ。俺はタクミ、今日は無礼講だからな、楽しもう」
「ブレーコー?」
「礼儀を気にしなくて良い場って意味さ。普段は礼儀を大切にする国だから、たまには息抜きが必要なんだ」
「確かに、この国に入ってから皆さんの丁寧な態度に驚きました」
「そうでしょうそうでしょう、それがこの国の良いところ、他国にない伝統ですからね。ささ、一杯どうです」

 

「貴様ぁ!何やっとるか!」
唐突に怒声が響き渡りました。見ると壮年の男性の前で若い女性が土下座しています。
「申し訳ございません、どうぞお許しください」
「貴様は上司への敬いというものが無いのか!」
そうだそうだ、と周囲も便乗して女性を責め立てます。
彼女はひたすら泣きながらひれ伏していました。

「あれは?」
「ああ、彼女がマナー違反をしたんです」
「多分ビールを注ぐときラベルを下に向けたんじゃないかな」
「そんな事まで決められているんですか?」
キノは驚いてたずねました。
「ああ、法律みたいに明文化されてるわけじゃないんだけどね。一般常識さ」
罰として女性はお酒を何杯か一気飲みさせられ、トイレに行ったままお開きまで戻ってきませんでした。

 

二日目、ピカピカになったエルメスに乗ってキノは買い物を済ませ、ホテルに帰ると言付けが届いていました。
「明日朝10時  河原通公園で待つ」

 

三日目の朝、指定された公園へ向かうとそこにいたのは飲み会で話をした男性でした。息をのむほど美しい桜吹雪の中で、もだえ苦しむような顔をして、立っていました。

「旅人さん、私をここから連れ出してください!」
男は泣きそうな顔でそう懇願しました。

 

「この国では昔から礼節を大切にしてきました。伝統を守る素晴らしい国でした。ここ十数年の話です、あのマナー講師というのが現れたのは」
男は忌々しそうに吐き捨て、続けました。
「彼らは次々と新しい”マナー”を作り出していきました。皆が知らないマナーを教えなければ食べていけないので、その時々の思い付きで新たなマナーを”常識”に組み込んでいったんです。

この国の人々には主体性がありません。多数派の思想が国のルールになってしまうんです。例えばこのモトラドさんを指さしてみんなが「これはホヴィーだ」と言えば、この国ではそれはホヴィーという事になってしまいます。王様の言葉ですべてが決まる王政の国がありますよね?王様のひと言で黒が白になるほど強い発言権を持つ。」
「ええ、そういった国も見たことがあります。」
「この国は国民が王である絶対王政なんです。王が一人の国と違うのは、その決定に責任を持つ者がいないため、どんな滅茶苦茶な事が決まっても誰のせいにもできないのです。強いて言えば、私たち国民の責任ですね。こんな息苦しい国には耐えられない、もう限界なんです。」
「ご自分で国を出る事はできないのですか?」
「そんな事をすれば残された家族が村八分にされてしまいます!」
村八分?」
「社会からのけ者にされるって事」
エルメスが付け足しました。
「国から逃げ出すのではなく、新しい仕事として旅人さんのお手伝いという形なら逃亡者とはされません。どんな事でもしますから、私をお供として連れ出してください!」

キノは少しの間躊躇いましたが、はっきりいう事にしました。
「申し訳ないのですが、それはできません。ボクのモトラドに二人乗りで旅は難しいですし、あなたを連れて行く余裕はありません。」
「あ、ああ...そうですよね。私は...失礼しました。自分の事しか考えずに...やはりこの国の人間としてあと何十年か耐えて生きねばならないのですね。」
がっくりと膝をつき、男はうつろな顔で呟きました。

そんな中能天気な声で口を開いたのはエルメスでした。
「でもさー、さっきおっちゃん「次々と新しいマナーが作られていく」って言ってたよね?」
「・・・? はい」
「じゃあさ、自分でもそういうの作っちゃえば良いんじゃない?おっちゃんみたいにマナーにうんざりしてる人が沢山いるなら、多分みんな乗ってくれるよ」

エルメスの言葉を飲み込むまで少し沈黙しましたが、男の顔はみるみる明るくなっていきました。
「そうか・・・その手があったか!駄目で元々、やってみるしかない!ありがとうございます!」
男は繰り返し感謝の言葉を述べ、軽い足取りで帰りました。


草原の真ん中をモトラドがばばばばばばと走っていきます。
運転手の服についていた桜色の花びらがひらひらと舞い落ちました。
「ねえキノ、あのおっちゃん上手く行ったと思う?」
「わからない・・・。でも、国を変える事が出来るのはその国民だけだ。
ボクたちにできるのは、せいぜいアドバイスするくらいだね。」

 

 

 

その後、この国である本がベストセラーになりました。
『あなたのマナーはもう古い?世界の新常識~大切な事は旅人が教えてくれた~』

 

 

 

2019.2.14

ミニTale『人類が滅びた日』

お風呂でぼーっとしている時にふと思いついたネタを文字に起こしました。

わざわざTaleとして投稿する内容でもないのでブログに。

 

 

 

 

2032年6月20日、人類の滅亡が確定した。

無差別にワープを繰り返していたチュルプ星人は火星と木星の間にワームホールを開き、偶然出くわした地球を金持ち向けの狩猟地とする事に決めたのだった。

これだけ小さい惑星に70億もの文明種がひしめき合っているのは珍しい。相当息苦しい生活を送っているのではなかろうか。すぐに数を減らしてより伸び伸び暮らせるようにしてやるさ、とチュルプ星人の一人が呟いた。

この星の技術レベルはかなり低く、宇宙への進出はごくごく初期段階のようで、我々へ噛みつく心配はほとんどない。まさに狩場として理想的であった。

まずは下地作りとして、地球上の兵器が無力化された。特に気になったのは異常に大量と言える熱核兵器だ。全て爆発すればこの星が3回は消滅する量だったが、何を目的としてそんな量を保有していたのかチュルプ星人には理解が困難だった。

この程度の兵器は彼らの個人用防護服にとってさえ爆竹程度の破壊力だったが、一発爆発するだけで数万の地球人が死んでしまう。ハンティングツアーの相場が100人殺して6万ケピアなので商売上看過できない量だ。

軌道スキャナーで核兵器の位置を特定してから電磁パルスで起爆装置をキルするだけなので、対処は容易だった。現地語でSCP財団を呼称する組織が非常時に備え種の保存を目的とした脱出船(SCP-2237)を用意していたが、わが船の自動迎撃装置がビームで蒸発させてしまった。植民先までプログラムされていたから放っておけば将来の狩場になったはずだが...。当然火器管制責任者は叱責された。

さて、あと数日でチュルプ星と地球との定期航路が開き、ハンティングツアーの客が押し掛けるはずだ。これから舞い込んでくる莫大な売り上げを思うと頬が緩む・・・

 

 

 

 

 


2032年6月20日、この宇宙の滅亡が確定した。

地球へ特異点的に集中していたあらゆるSCPオブジェクトが解放され、この宇宙は泡がはじけるように消滅した。この星にだけなぜそれだけの異常存在が集まったのかは誰にもわからない。

少なくとも、地球という小さな星がこの宇宙のキーストーンになっている事をチュルプ星人が知らなかったという事だけは確かだ。

 

(終わり)

 

・補足

キーストーン種:生態系において比較的少ない生物量でありながらも、生態系へ大きな影響を与える生物種を指す生態学用語。生態学者のロバート・トリート・ペインによって提唱された概念。

例として

北太平洋岩礁潮間帯のヒトデ (Paine 1966)
当該地域の岩礁には、複数の生物が生息している。フジツボカルフォルニアイガイは、共に同じ固着面を奪い合う同じ生態的地位を占める競争状態にあるが、両者の捕食者であるヒトデが共存している場合は、競争排除は起こらなかった。ヒトデを人為的に排除すると、イガイが岩礁の殆ど面を占有し、他の多くの生物が減少した。このことから、この系ではヒトデがキーストーン捕食者であると考えられる。
北太平洋沿岸のラッコ (Estes et al. 1998)
北太平洋沿岸では、1990年代にラッコの減少に伴い、その餌となっていたウニの個体数が増加した。ウニがジャイアントケルプの仮根を食い荒らしたため、ジャイアントケルプの海中林が破壊され、生物群集に影響が出た。

などが挙げられる。

オリジナルSCP『プロメテウスの果樹園』  

低評価で削除されたSCPだけど勿体ないからブログに投稿

 

アイテム番号: SCP-1917-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: オブジェクトはサイト███の独立地下区画に収容されています。収容施設は防音設備を備え、無菌状態に保たれます。収容室への入室にあたってはHAZMATスーツを着用し、滅菌処理を徹底してください。

現在3体のSCP-1917-JP-3が稼働中です。オブジェクトの利用申請は██████管理官とレベル4/1917クリアランスを所持する職員の書面での許可が必要です。ただし、緊急利用にあたっては██████管理官の判断で許可されます。

説明: オブジェクトは3.5mの青銅製の柱(SCP-1917-JP-1)と、それに固定された5つの拘束具(SCP-1917-JP-2)から構成されます。中央の柱には特徴的な紋章と、それを囲むように教会スラブ語で「視よ、我は世の終まで常に汝らと偕に在るなり。   1 」と刻まれています。この紋章の起源は不明ですが弱いミーム特性を持ち、見た者に教会スラブ語の知識があるかどうかを問わず上記の内容を理解させることができます。

オブジェクトの特異性は拘束具に人間を設置した際に発揮されます。拘束具を取り付けられた人物(SCP-1917-JP-3)は異常な回復力を身に付け、身体の一部分を取り除かれても一定の時間をかけて再生します。これは心臓、脳など通常であれば致命的な部位の除去であっても同様です。臓器や血液を失った事による身体機能への影響は通常の人間と変わらず現れますが、当該部位の再生にともない最終的には完全に復活します。各部位を取り除いた際にかかる再生時間のリストは文書1917-1を参照してください。ホモ・サピエンス以外のヒト型生物を用いた場合の反応は不安定で、予測不可能です。人間以外を用いた実験は事案1917-1以降無期限に中止されています。

SCP-1917-JP-3の異常な代謝性能により、薬物による鎮静は効果を表しません。この特性は通常オブジェクトに、身体部位除去の際大きな苦痛をもたらします。拘束具を取り外す事でSCP-1917-JP-3は特異性を失います。その時点で受けていた損傷が致命的なものであれば、拘束具を取り外された瞬間に非異常性の人間と同じように死亡します。上記の条件により、複数回の部位摘出を受けた対象は、オブジェクトからの解放後深刻な精神的外傷を残す可能性が高まります。

補遺1: SCP-1917-JPは1930年代後半、GRU”P”部門により開発された事がわかっています。ソビエト連邦崩壊の混乱に乗じてアメリカへと渡り、米国政府との協定により財団へと引き渡されました。オブジェクトは発見時に4人が拘束されていました。彼らの身柄はオブジェクトと共に確保され財団へ移送されたものの、長期間の拘束と繰り返し受けたであろう部位摘出のショックから有効な情報は引き出せませんでした。

開発主任 D.I.スハレフスキーの日記

193█年█月█日

プロジェクト・メハニズマの完成はまさしく医学分野での革命と言えるだろう。この技術は高度な軍事機密として扱われ、閉鎖都市の外へ持ち出される事はない。人間のパーツを機械のように取り替えられるとして、その部品はどこから調達する?残念ながら人間は畑で採れるようなものではない。現時点では、の話だが。

193█年█月█日

サーシャの怒りはもっともだ。彼が学んでいた神学校を取り壊して彼を「より実用的な」言語アカデミーへ放り込んだ共産党のお偉方が、手のひら返して彼に頼り始めたのだから。しかしこのプロジェクトは彼の協力なくしては成し遂げられない。経験豊富な長老たちはほとんど銃殺されてしまったから。


193█年█月█日
このアイデアキリスト教徒、ましてや聖職者が快く協力する事がありえないのはわかっている。ただこれが完成した暁にどれだけの命が救われるか、その事さえ理解してもらえれば、おそらくは…。


[日付不明]

世界情勢は日に日に不安定さを増している。このままではヨーロッパで大戦が勃発するのも時間の問題だろう。なんとしてもそれまでにこのプロジェクトは完成させる必要がある。

193█年█月█日

シベリア東部、███████の古儀式派教会から回収された文書はこのプロジェクトの突破口となるかもしれない。サーシャと長老たちは復活の概念について熱心に議論している。神学者ではないこの私には到底ついていけない議論だが、彼らと技術者の間を繋ぐのが私の仕事だ。

193█年█月█日

プロジェクトの大枠は固まりつつある。現時点での試算はこのプロジェクトが年間██████人の命を救えるだろうと予想している。今から期待するのは捕らぬ狸の皮算用とも言えるが、プロジェクトは確かに前進している。


193█年█月█日

神は実在するのだろうか。それともいつの日か、この出来事も科学で説明されるのだろうか。信仰を放棄した忠実な党員は、顔には出さなくてもこの・・・奇蹟を目にして動揺している。涙ぐむ聖職者を眺めながら、我々は言葉を発することができなかった。

193█年█月█日

実験は順調に進み、急速にデータが集まっている。興味深い用途が見つかった。樹に固定された時点でその人間は死の手から逃れ、再生を始める。これは身体部位調達だけでなく、重傷を負った要人の救命に用いられる可能性を示している。現在の実験調査は主に副作用の慎重な測定を目的として行われている。

194█年█月█日

製造済の樹と研究施設はドイツのスパイから守るため、中央シベリアまで移送される。数えきれない程の命が日々失われているが、その一部でも救える事が誇らしい。最小限の犠牲でファシストを西へと叩き返したいものだ。祖国に栄光あれ。

補遺2: 現在財団は3体のSCP-1917-JP-3をオブジェクトに設置しています。彼らはSCP-███及びSCP-███に対する抗体を有しており、財団倫理委員会での激しい議論の末オブジェクトへの利用が許可されました。現在██████のワクチンを入手する唯一の手段となっています。重傷者の救命目的での利用は経験豊富な機動部隊指揮官、代替不可能な研究者、またO5職員の命を救ってきました。過去の利用記録とその経過は文書1917-2にまとめられています。

ロシア語とラテン語を比較してみる文法の話

 

 

以前試験のために制作したWebページ

内容がなかなかお気に入りなのでここに投稿しようと思います。

 

 

 


文法小話

動詞の人称変化

ロシア語もラテン語も「誰が行うか?」を動詞を変化させる事で表します。ドイツ語などをされている方にもお馴染みかもしれませんね。 両者とも ・単数、複数 ・一人称、二人称、三人称 を区別するため、一つの動詞が(現在形で)6つの変化形を持つ事になります。表で見てみましょう。

  単数 複数
一人称 amō amāmus
二人称 amās amātis
三人称 amat amant



  単数 複数
一人称 chitayu chitayem
二人称 chitayesh' chitayetye
三人称 chitayet chitayut



ロシア語では基本的に行為者(私が、彼が、あなたが)を書きますがそれが無くても動詞の形から判別できますし、 ラテン語は基本的にこの動詞の人称変化のみで行為者を表します。
例:
Vidēs. あなたには見えている。
Videō. 私には見えている。

一語で文が完結してしまうのがラテン語の面白いところですね。この特徴は今でもラテン語のフレーズが様々な場所でモットーとして用いられている 理由の一つであるように思えます。

格変化とその用法

ロシア語もラテン語も名詞の形を変化させる事で格を表します。この『格』はしばしば「日本語の”てにをは”を表すもの」と説明されます。
これを表で見てみましょう。
servus:奴隷

  単数 複数
主格 servus servī
属格 servī servōrum
与格 servō servīs
対格 servum servōs
奪格 servō servīs
呼格 serve servī


これは数種類ある変化パターンの一つで、多くの男性名詞がこの変化をとります。勿論他の変化をとる場合もありますし、女性名詞がこの変化をする場合もあります。
続いてロシア語の変化も見てみましょう。
student:学生

  単数 複数
主格 student studenty
生格 studenta studentov
与格 studentu studentam
対格 studenta studentov
造格 studentom studentami
前置格 studente studentakh



これは男性名詞の変化の一つです。
ロシア語、ラテン語ともにすべての名詞は男性、中性、女性に分けられそれぞれ異なる変化パターンを持ちますが、 ここでは上記の二つについてのみ見てみましょう。
まず、格の分類はどうなっているでしょうか。主格、与格、対格は同じですね。属格と生格、造格と奪格はそれぞれ似た性格を持っています。
実際の使い方から見てみましょう。

・所属を表す格
ラテン語の属格、ロシア語の生格はどちらも所属を表すことができます。

・cibus servōrum :奴隷たちの食べ物

・kniga studenta :学生の本

・前置詞と格
ラテン語の前置詞inとロシア語の前置詞v(na)は後ろに対格を置くことで「~へ」、奪格(前置格)を置くことで「~において」を表します。

・in oppidum(対格)、v gorod: 町へ

・in oppidō(奪格)、v gorode(前置格): 町で

oppidumは中性名詞ですが、ロシア語ラテン語共に中性名詞単数の主格と対格が等しい形を取ることは興味深いです。ロシア語の男性名詞対格は 生物(活動体)の場合生格、無生物(非活動体)の場合主格と等しい形をとります。上の例の場合男性名詞gorod(町)は生物ではないため、主格と等しい形を とっているのがわかります。

・呼格について
上の表を見ると、ラテン語に存在する呼格がロシア語には書かれていませんね。呼格というのは呼びかけの際に使う格です。 ではロシア語に呼格が存在しないのかというと、「ほとんどの名詞は主格が呼びかけに使われる」というのが正確なところです。
辞書を引いてみるとbokh(神)otets(神父)などの語に特別な呼格形が存在している事がわかります。

 

2018.09.22

お気に入りSCP紹介:シリーズ1-2

続けましょうか。

 

SCP-212『”改善”手術台』オブジェクトクラス:Safe

SCP-217『時計仕掛けのウイルス』オブジェクトクラス:Keter

SCP-247『無害な子猫』オブジェクトクラス:Euclid

SCP-259『ワイゼングラス螺旋』オブジェクトクラス:Keter

SCP-261『異次元自販機』オブジェクトクラス:Safe

SCP-294『 コーヒー自動販売機』オブジェクトクラス:Euclid

SCP-306『かえる』オブジェクトクラス:Keter

 SCP-343『神』オブジェクトクラス:Safe

 

ネタバレが気にならない人はスクロールして下へどうぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SCP-212『”改善”手術台』オブジェクトクラス:Safe

使用者の身体をアップグレードしてくれる自動手術装置。麻酔や生命維持に無頓着なので2回に1回は内臓とかを取り出してる間に死ぬ。

添付資料として手術の各ケースが記載されていて面白い。うおとかが好きなのは眼の代わりに新しい感覚器を設置される奴。

 

SCP-217『時計仕掛けのウイルス』オブジェクトクラス:Keter

かなり有名なSCPの一つだと思う。生物の肉体の一部を機械仕掛けに置換してしまうウイルス。感染率100%の上症状の進行が遅いのでパンデミックが起こりやすくKeter指定。

 

SCP-247『無害な子猫』オブジェクトクラス:Euclid

無害な子猫(大嘘)2つのミーム特性を持つベンガルトラ。1:どのように観察しても茶トラ柄の子猫にしか見えない。2:例え猫嫌いの人間でも親愛感を抱き近づいて撫でたくなる。

上記の特性は捕食行動のためなので安心して近づいた動物は何が起きたか理解できないまま貪り食われます。

 

SCP-259『ワイゼングラス螺旋』オブジェクトクラス:Keter

コンピュータ上で生成されることで未知の場所へのポータルを開くフラクタル画像。コンピューター版魔法陣ってところかな。プラズマで周囲が消し飛んだりブラックホールに吸い込まれたり有毒ゴキブリが無限にあふれ出たりする。

 

SCP-261『異次元自販機』オブジェクトクラス:Safe

自販機大国と言えば日本!というイメージなのか日本で回収されたアイテム。日本円を入れると奇妙な食べ物や飲み物が出てきます。どう見ても地球以外の場所で作られたような食べ物も多く、めちゃくちゃ沢山項目がある実験リストを眺めるのが楽しいオブジェクト。「何らかのものを出すどのSCPを使用しても林檎の種が出てくる」というネタキャラのキング博士が使用したら、案の定林檎の種しか出ませんでした。

 

SCP-294『 コーヒー自動販売機』オブジェクトクラス:Euclid

キーパットに希望する液体の名前を打ち込むと何でも出してくれる自販機。一般的な飲み物から「今までに飲んだ最高の飲み物」のような抽象的なオーダー、さらには「音楽」「私の人生」といった抽象概念まで飲み物として提供してくれるすごい奴。一番の悲劇はエージェントのジョセフ・██████(愛称はJoe)が「Cup of Joe(コーヒーの意味)」という英語の言い回しで注文したおかげでジョセフ某の体液が抽出された事かな。ちなみにこの言い方の由来は諸説あるけど、有力説としてはジョセフ・ダニエルズという人がアメリカの海軍長官に就任した際、軍人にアルコールを禁止して代わりにコーヒーを飲ませたから、と言われてます。

ちなみに前述のキング博士が使用したら案の定(略)

 

SCP-306『かえる』オブジェクトクラス:Keter

非常に高い感染力を持つ未知のウイルス。感染者はかえるに似た姿に変異します。変異後も知能が高く、教育実験の試みが収容違反を引き起こしたインシデントあり。

 

 SCP-343『神』オブジェクトクラス:Safe

人間の外見をした全知全能の神。本人の意思で収容室にとどまっているが財団の能力では強制的な収容が不可能。明らかにカリスマ的ミームを持っており、周囲の研究スタッフはその影響下にあり、彼が無害だと信じたうえでSafeクラスに分類している。オブジェクトの能力に不信感、危機感を抱いていた博士は「いなかったことに」なりました。ミーム影響下にあるSCP文書の一例。

 

今回は200~300番台を紹介しました。続きはまた今度。

 

お気に入りSCP紹介:シリーズ1-1

 おはこんばんちきゅう!久しぶりにSCPチェックしたらいつの間にか4000番代が出来ててびっくりしたうおとかです。

今回はお気に入りSCP紹介の第一回として、シリーズ1(SCPナンバー~999)から選ぶつもり。SCPに興味を持ったけど3000以上あるSCP記事のどれを読んだら良いのかわからなくて困ってるニュービーをしばしば見るので、参考になれたらと思いながら書きます。

ちなみにうおとかの趣味は

・物理世界のシミュレーション

・世界のミニチュア

・この地球や宇宙ごと破壊する超大規模な物

あたりが好きです。性癖です。フェチです。そんな主観的な基準でSCPを選んでいこうと思います。ネタバレを含むかもしれない。そのため読み続けるには少しスクロールしてください。ネタバレを好まない人は以下のリストから本家記事をどうぞ。

 SCP-089『トペテ』オブジェクトクラス:Euclid

SCP-090『ルービックキューブ黙示録』オブジェクトクラス:Keter

SCP-108『異次元の鼻腔』オブジェクトクラス:Safe

SCP-113『ジェンダースイッチャー』オブジェクトクラス:Safe

SCP-165『トゥール砂漠の這い寄る飢えた砂』オブジェクトクラス:Keter

SCP-166『年頃のサキュバス』オブジェクトクラス:Euclid

SCP-169『リヴァイアサン』オブジェクトクラス:Keter

SCP-186『全ての戦争を終わらせるために』オブジェクトクラス:Euclid

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まずSCP-089『トペテ』オブジェクトクラス:Euclid

災厄を予告する古代の像。数十年に一度、儀式に捧げられるべき者の名前、儀式の手順、それが守られたかった際に発生する災厄を告げます。

儀式が遂行されなかった場合大火災、虐殺、火山噴火などが発生し、儀式が完了するまで大量の人々が死に続けます。それを鎮めるために必要な儀式、トペテによって指定される犠牲者は健康な幼児、子供。みな母親に深く愛されています。儀式を遂行するのはその母親。トペテ像内の空洞に子供を入れ、母親の手によって焼き殺すことで災害イベントは沈静します。えげつないね。

トペテ自身が災害を引き起こしているようにも見えるけど、あくまでトペテは災害を予言しているだけで、その被害を抑えるための手段を提供しているのではないか?と推測する博士もいます。

 

続いてSCP-090『ルービックキューブ黙示録』オブジェクトクラス:Keter

各面1万マスのルービックキューブ。約2.8秒間隔で勝手に動きます。部分的に揃うたびに大量の死者が出る大災害や収容違反が発生するアイテム。すべて揃ったらやばそう(小並感)

無理に弄ろうとするとブチ切れて他のSCPの収容違反引き起こすよ。

 

SCP-108『異次元の鼻腔』 オブジェクトクラス:Safe

鼻の穴の奥がナチドイツの航空機格納庫に繋がってしまった不幸な女性。ナチ関係の人間や労働者の腐敗した死体がたくさんの空間からくる空気を吸い続けてます。つながった先が物理世界のどこに対応しているのかは今のところ未判明。内視鏡を鼻に入れたときにメッサーシュミットを見つけた医者のぶったまげかたはありありと想像できますね。

 

SCP-113『ジェンダースイッチャー』オブジェクトクラス:Safe

使用者の性別を変えるスイッチ。激痛でショック死する可能性はあるけど一回なら比較的安全に使えます。2回目は25%の可能性で失敗し、体が滅茶苦茶になって死にます。それ以降繰り返し使うたびに失敗の確率は指数関数的に増加し、生き残った場合でも最終的に[削除済み]へ変異するそうです。

 

SCP-165『トゥール砂漠の這い寄る飢えた砂』オブジェクトクラス:Keter

砂漠にすむ砂粒を纏った肉食性のダニ。数兆匹の群れで麻痺物質などを分泌して、獲物に気づかれることなく肉をかじり取るよ。

 

SCP-166『年頃のサキュバス』オブジェクトクラス:Euclid

彼女を見るとすべての男が性的欲望に捕らわれてヤリたくなる特性を持つ女の子。本人はごく普通の女の子なのでめちゃくちゃかわいそう。レズ女性へは影響しないんですかね...?

 

SCP-169『リヴァイアサン』オブジェクトクラス:Keter

デカいは強い(至言)

特に何もしないけどひたすらデカいので動くだけで地球が破壊されるKeterの海蛇(?)

 

SCP-186『全ての戦争を終わらせるために』オブジェクトクラス:Euclid

第一次世界大戦中に用いられた呪術的で異常な兵器。発射する機関銃や迫撃砲は通常の物だけど、おぞましい砲弾で死ねない苦しみを与える異常兵器です・

 

 

 

思ったより多かったのでひとまずここまで。次は200番以降へ移ります。

 

読書感想文:『すばらしい新世界』

そもそもこのブログに「うおとかの本棚」と名付けたのは読書感想文を載せようと開設したからなのだが、これまでに投稿したそれらしいものは『アナル全書』についての記事のみで、それすら読書感想文というよりは書籍レビューに近い代物だ。今回はオルダス・ハクスリーの著した『素晴らしい新世界』について、その感想を記したい。

未読者のために、作品世界を簡潔に描写しよう。西暦2540年。世界は完全に統制されている。母親が腹を痛めて子供を産む時代は忌むべきものとして忘れ去られ、すべての人類は瓶詰のまま人工授精で生産される。社会はトップエリートであるアルファ階級から、最下層のエプシロン階級までで構成される階級社会である。全ての人類は生を受けた直後から始まる条件付け教育によりその階級に対して模範的な人格しか持たない。彼らは与えられた役割をこなし、余暇にはフリーセックスに励んだり、副作用なしにトリップできる政府配給の麻薬を飲んで時間をつぶす。

まずこの小説の舞台が、国民すべてが幸せに暮らすユートピアであるが、外部から見れば何もかもが人為的に統制されたディストピアであるというある種の矛盾から始まる。他のディストピア小説と同じように、この作品世界において統制者にとって不都合な書籍や思想は徹底的に排除され、すべての人々は機械の歯車のように、みな同じ顔立ちで与えられた仕事を遂行する事が要求されている。我々の価値観からすればこれは自由がなく、個性が許されず、不幸な生活に思える。この世界では誰もが自分の立場が一番素晴らしいと信じていて、それを遂行する事こそ自由の喜びなのだ!

その理由は徹底した条件付け教育—我々の言葉では「洗脳」と呼ぶ―にある。これは睡眠学習によって行われる。例えばベータ階級の幼児が睡眠中に聞かされる文を見てみよう。「デルタの子はみんなカーキ色の服を着ている。ああ嫌だ。デルタの子たちとは遊びたくない。エプシロンなんてもっとひどい。ものすごく頭が悪くて読み書きもできない。おまけに服の色は黒で、ほんとに嫌な色だ。私はベータで本当に良かった。」「アルファの子は灰色の服。わたしたちよりうんと勉強をする。頭がものすごくいいからだ。わたしはじぶんがベータでほんとうによかった。なぜならそんなにたくさん勉強しなくていいから。」

彼らはこれを5万回以上繰り返して聴くことになる。ここで特筆すべきは、「上の階級より自分の階級の方が良い」という刷り込みを与える事だ。普通の人間には向上心というものがあり、階級社会では上を目指そうとしたり、それが不可能なら上に立つ人間をねたんだりする。この競争は社会を前へ前へと進める原動力になるが、それはすなわち社会に不安定をもたらすという意味でもある。

この作品世界は前進を求めない。既に理想の世界は完成している。あらゆる不安定要素を取り除くことこそが幸せを保つ手段なのだ。

この描写には行動心理学への批判も込められている。「パブロフの犬」に表される「心理的行動は一定の刺激による反応として現れるものであり、条件付けにより制御ができる」という思想は一部の人々に拡大解釈され、条件付けの効果を過大評価する向きが当時表れていた。ハクスリーはそれに具体例を提示し、その不自然さを見せようとしたのだ。

この世界ではフリーセックスが当然のものとされ、一人を独占しようとする考えは奇異な物として扱われる。これは前述した人工授精による人口生産が定着したことにベースがあると考えられる。そもそも人が家族を持とうとするのはなぜか?男女が生殖すれば生まれた子供には養育者が必要となる。その為に父親、母親に養育義務を遂行させるために拘束するシステムが結婚、家族制度であろう。むろん我々には家族愛といものがあって、家族というのはそんな無機質なシステムに還元されるものではないという感情もあるが、家族機能の根本はこの原理にあるはずだ。では、誰も子供を産まず、幼児が養育センターで集中管理されるようになれば家族の必要性とは何か。そんなものは存在しない、というのがこの世界での考え方だ。

生殖と結びつかなければセックスはただのレジャーに過ぎない。この点は我々の社会でも、ゲイの性行動が比較的奔放に見える要因であると考える。行きずりの女性とのワンナイトラブも当然存在しないわけではないが、初対面のゲイが好き勝手にセックスする発展場の数とは比べ物にならないだろう。我々の世界において同性婚はかなりのレアケースであって、家族となる事を前提としなければ性に奔放になる理由も明白である。

この世界の階層社会は明確な優生学に基づいているが、そのシステムも独特だ。ナチス・ドイツが行った優生学的社会の構築は優れた人種を残し、劣等人種を絶滅させる選民思想に基づいて行われたが、この世界では優れた人種と劣等人種を人為的に作り出すという点で異色である。指導者となるべきアルファ階級は考えられる限り最高の工程で生産される。では劣等人種たるエプシロンはどうかというと、まず一つの受精卵を分割するところから始まる。一卵性双生児を人為的に作るわけだが、ここでは最大96人が一つの卵から生産可能とされている。96人の同じ顔、同じ声の人間が生産される訳で、これは人間を機械のパーツのように用いる為には実に都合が良い。さらにエプシロン階級は胎児の時点で意図的な低酸素状態に置かれる。これにより発育が遅れ、低知能、低身長となる。オーウェルの小説『1984年』において最下層であるプロレは無害な娯楽を与え、教育を施さない事で最下層としたが、『すばらしい新世界』においては発育段階から低知能とすることでより統制しやすいシステムであると言えよう。これが正しい選択である事は、作中において実験から導き出された科学的事実である。

西暦2381年、キプロス島に22,000人のアルファ階層のみを集め、最高の人間のみによる社会を構築させる実験が行われた。その結果を見てみよう。

「世界統制官評議会がキプロス島から全住民を追い出し。22,000人の特別に作られたアルファを入植させた。農業と工学の設備をすべて引き渡し、社会の運営を自分たちでやらせた。その結果は理論的に予想されたとおりのものだった。土地はきちんと耕作されず、どの工場でもストライキが起きた。法は実効性を失い、命令は無視された。低級労働を割り当てられた者は高級労働につこうとたえず画策し、高級労働を割り当てられた者はなんでも現在の地位を守ろうと策略をめぐらした。6年後には本格的な内戦が勃発。人口22,000人のうち19,000人が殺された時点で、生き残った住民全員が合意して世界統制官評議会に島の統治を再開するよう懇願した。評議会は承諾した。こうして史上唯一のアルファだけの社会は終わりを迎えたんだ。」

ここで話題を変えて、重要な登場人物である野蛮人ジョンを見てみよう。「文明人」によって統制されるこの世界にも「野蛮人居留区」があり、そこではいわゆるインディアンが自身の文化を保ちつつ生活している。ある文明人の女性が野蛮人居留区を訪問中事故で行方不明となり、野蛮人居留区で子供を産んで育てる事となった。その子供がこのジョンだ。この世界で「出産する」というのは口に出すのもはばかられる卑しい行為で、その子供を連れて文明社会に戻るなどという生き恥を晒すことはできず、その元文明人の女性は野蛮人居留区にとどまる事となる。この作品世界において過去の文学は全て抹消されているが、このジョンは野蛮人居留区に残されていたシェイクスピアを読んで育つ。その事に起因し彼の喋る言葉はほとんどがシェイクスピアの引用である。”野蛮人”がシェイクスピアをそらんじる可笑しさがこの世界を皮肉っている。実際、この文明社会において求められるのは「幼児性」であると明言されている。自分がしたい事をする。快だけを求める。安らぎに溺れる。その全てを提供するのがこの社会であって、それ以外の全てを排除するのがこの社会である。

ジョンは文明人の子供である事から、野蛮人社会でも孤立していた。条件付け教育が効きづらい体質から自らの異端さを認識し苦しんでいた主人公は野蛮人居留区を訪れた際このジョンに共感し、彼を文明社会へ連れ出すことを決める。ジョンについての話はここまでにして次に移ろう。

この文明社会では、当然想像されることだが、キリスト教は存在しない。しかし、はたして宗教の存在しない文明などあるだろうか?この世界で信奉されているのは実在の人物、ヘンリー・フォードである。アメリカの自動車メーカーフォード社の創業者、大量生産システムの父と言えば誰でもわかるだろう。定期的に行われる「団結儀式」は全員で幻覚剤を服用し、フォードの名を讃え、熱狂と陶酔に溺れる。この世界では工業を成長させるため、消費を促進する条件付けが行われている。「継ぎはぎするより次々捨てよう」「縫い針一本恥のもと」そのためフォードが信仰対象として、この世界の統治者によって選ばれたのだろう。ただ、実際のところ信仰する対象など何でも良いのだ。

登場人物の名前がレーニントロツキーマルクスなどに由来している事から、作者はソ連も作品世界のディストピアと共通点があると見ている事がわかる。ソ連共産主義は宗教を排除したが、果たして国民に信仰が存在しなかったか?否、レーニンスターリンへの個人崇拝こそソ連の国教であり、人民の持つ”信仰エネルギー”はそこに向けるよう管理されていた。こうした建前と実態の矛盾を描き出したのがこの作品だといえよう。

以上、このディストピア=ユートピア小説について概観した。ここで触れられているのは原典のごく一部なので、興味を持った者には是非読む事を勧めたい。その際には注釈の非常に丁寧な新訳版を勧める。

 

すばらしい新世界 (光文社古典新訳文庫)

すばらしい新世界 (光文社古典新訳文庫)

 

 

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動物農場』:ジョージ・オーウェル

『われら』:エウゲニー・ザミャーチン

ユートピア』:トマス・モア